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真実と真相(71)

     彼女は30代に突入し、生き方の迷いや身の振り方がゆらぐ年齢である。 自由になる蓄えもあるので、身なりはこぎれいに整っている。 それなりの男性が過去に現れても不思議はない条件を持っているが、彼女の意に添わなかったのだろうか。 やりたい事が盛り沢山だったという感じもする。 

     彼女は何かと相談相手になってくれる島木を頼りがいがあると思っていた。 相談といっても、ほとんど自分で決められるが迷うことがあれば島木の意見を参考にできるので、一番の理解者であり話し相手であった。 若さだけ、かわいらしさだけを売りにしているのでなく彼女には賢さがあった。 二人の繋がりは恋愛感情と同時に信頼関係があったのだ。 そうでなければ2年以上も長続きしなかったであろう。 

     食事と会話を楽しみ、店を出たあと二人は歩き始めた。 

「これからだんだん寒くなっていくわね」 

「そうだな。 1年経つのは早いな」と、島木が言うと二人は自然に腕を組んでいた。 何気ない会話が若い時はそれほどでもない事だったかもしれないのに、島木はたまらなく彼女とのデートに痺れる瞬間であった。
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真実と真相(70)

     そんな事より、今日は久しぶりに彼女と会うことになっている。 島木はささやかな幸福感を味わう気分だ。 若いころの恋愛気分に浸りきって、心ときめく島木である。 二人は良く行く店もあるが、今日はビルの最上階でゆったり夜景を見ながら食事とワインを楽しむ事にした。 

     待ち合わせの場所に現れ彼女は現れ、揃ってエレベーターに乗り目的のレストランに入った。 席に着くと、彼方に見る高層ビルの明かりがまばゆく輝いている。 星空に代わって都会らしい華やかさと豊かさを感じる明かりがどこまでも広がっている夜景の演出である。 

     彼女は片手にワイングラスを持つとほっそりとした腕を島木の方へ伸ばした。 二人はカチッと音をさせてグラスをぶつけると、「乾杯」と言ってほほ笑んだ。

     「夜景がきれいね」と言って大きな窓に目を向ける彼女は、スラリとしたスタイルの良さはなかなかである。 テレビのスキンケアやメイク落としのCMに出てくるような雰囲気で、やや長めにしている髪も美しく似合い、はつらつとして品の良い都会的な風貌が島木に魅力的に映った。 若さも手伝っているのだろう。 島木はロマンチックなムードが大好きである。

真実と真相(69)

     二人はいつしか旅行の話をしていた。 エーゲ海の島めぐり、眩しい太陽、青空、美しい海が脳裏をよぎった。 美しい景色、異国の空気、ゆったり気分。 それともニューヨークというのは・・・ 活気と刺激。 ひときわ目立つ照明の下のウィンドショッピング、レストラン、着飾って出向く劇場。 そんな話をしてささやかな計画を立てる二人である。

     恵子と幸子は自分たちの人生を、メリハリのある有意義な人生で送りたいと思うばかりであった。
島木の不倫も、犯罪も、幸子の職場も、人は思い通りに生きられない悔しさやストレスを抱えて生きている。 島木も自分の都合を通していると、どんな事になるかわからない。

11) その後

     島木もとんだ被害を蒙ったものである。 おかげで随分ヒヤヒヤさせられた。 妻は妻で耳の痛い事を色々言っていたし、幸子は指紋を採るから封筒をよこせなどと言ってきたのには参った。

     幸子には悪いが、警察沙汰になればどうしてそのようなお金を持ち歩いたのかとの取り調べにつき合わされる可能性もあった。 島木としては幸子の心配が晴れて良かったといえば良かったのではある。 

真実と真相(68)

「ああしているしかないのでしょう。 何でも生活の為と思うとこっちが嫌になるわ。
あの人には取調官か何かになってほしいわ。 ヒステリックに相手を攻め落とせるし、それこそ言いたい放題好きなこと言えるわよ。 今の職場にいる以上に、徹底的に罵るのも平気でできる。 あの人なら自白させるテクニックは生まれ持っているから天職だわ。 普通の人にはすぐに出来ない」と、言って幸子は確信している。

「そうかしらね」と、恵子はあまり同感ではなかった。
 
犯人といい、あの女といい、苦痛の根源は取り去れないものか。 不愉快さではどちらも嫌な気分である。 幸子はこれまでの過ごした無駄な時間が鮮明によみがえった。 

「悪の根源を取り去る事はできなのかしら。 とにかく私達は後悔のない人生にしたいわね」と、幸子は言い、社会人となって生きる時間の大切さと意義をしみじみ感じる二人だった。

日常生活のぶつかり合いは、自分の都合だけを通そうとする人が多いからである。
     幸子は計画を立て留学でもしようかと考えていた。 単純でよくある話だが、日本を離れて幅広く自分と社会を見つめなおす気になっていたのだ。 幸子にとって一度だけの人生である。 その与えられた時間の人生を、もう少し切り開いて生きていきたい幸子であった。 厳しい冬が訪れる前のやわらかな光を感じながら、二人は微笑みながら語り合っていた。

真実と真相(67)

「まず、疑いを持って、ああじゃないこうじゃないと嫌がらせ言うのが苦にならないじゃない。 あの女の場合は特殊だから、むしろ楽しんでそういう仕事ができるのよ。 趣味と仕事が一致しているとは正にこの事だわ。 この犯人はどうしてこんな事に、なんて同情していたら仕事にならないわよ。 人の気持ちを配慮していたら自供に追い込めないわ。 だから犯人とあの女が出会っていれば、毒をもって毒を制するので丁度良いのよ」
幸子の云う事はまるっきり見当はずれとは言い切れない。

「ユニークな発想だけど毒の種類が違うし、犯人がただの毒気にやられているようじゃ駄目よ。 女刑事となると犯人も甘く見るに決まってるわ。 ましてやヒステリー症状なんていうのはチョロイもの。 天職なんてなかなか無いものよ」と、恵子は言った。

「そうかなぁ。 容疑者の襟首つかんで『さっさと白状しろと』とか言って、頭を机にガンガンたたきつけるくらい喜んでやる感じがする。 そんな光景が目に浮かぶわ」と幸子は言った。

「天職といえば、その女、今の状態が好きなのかしら。 その話からすると、うさ晴らしにかみついたり闘ったりするのが好きとしか思えないけど」と、恵子は言った。

真実と真相(67)

「その島木さんて、きっとお金持ちなのよ。 30万円近くも失くして傷が浅いみたいだから、私達と違うのね」と、感心して恵子は言った。

「ああ、そうかもね。 私の事を疑ったりしなかった。 でも・・・」
そう言った瞬間、幸子は人をとっちめてやろうとする職場にいる、あのぞっとする女の顔が頭によぎった。 現金紛失後の嫌な記憶が鮮明に甦ったからだ。 幸子への犯人扱い。 あからさまに人の不幸を喜ぶ意地の悪さと、優越感に満ちた職場にいる憎々しい女の表情を思い浮かべたのだ。
 
「ああ、また嫌な事思い出した。 嫌だ 嫌だ」と、言って幸子は急に気分が滅入って両手で顔を覆った。 そして幸子は、犯人の顔もきっとどこか秘密を隠した不気味な雰囲気を漂わせている人ではないかと想像をめぐらした。 

「犯人はどんな奴だか知らないけど、嫌なオーラが出ているのはきっと同じだわ」と、幸子は言った。
「ところであの職場の女、天職は刑事なんじゃないかしら」と、幸子は続けた。

「ええっ! どうして? どうして刑事なの」

真実と真相(66)

     「子供のころは誰でも、自分が犯罪者になると思っていなかったはず。 犯罪が起きる要因はあっても、本人の意思の持ち方は大切ね」と、恵子は言った。

「罪を憎んで人を憎まずか。 そんな気持ちになるのはなかなか難しいわね。 私のような被害者には無理な発想だわ」と幸子は言った。

「本当ね。 恨んだり悔しがったり、自分で自分を苦しめてしまうことは誰でもある。 済んだ事だから忘れろと言うのは難しいわよ。 犯人は自分の都合だけを通そうとしただけで、こういう結果になってしまったのね。 何の関係も無い幸子さんに災いしちゃって・・・」と、恵子は言った。

     コーヒーカップを前にして、外を眺めながらも二人は何度も微笑みを交わしあった。
「それにしてもどうしてそういう連中がいるのだろうね、この世の中に」と、幸子は軽くテーブルをたたきつけて言った。 二人の分析は尽きない。

「被害者が苦しむなんて・・・他にも振り回された人はたくさん居るのでしょうね。 島木さんは冷静だったわよ。 島木さんたらヒョウヒョウと説明しちゃって。 お金を盗られた事は、まるでどこかに体をぶつけて擦り剝く程度の怪我をしたみたいに、あまりこだわっていなかったわ。 女みたいに騒げなかったのかもしれないけど」と、幸子は続けた。

真実と真相(65)

     幸子は恵子に言った。 「不運な事ばかりじゃないわね」 

     幸子は身の潔白が晴れてうれしいが、不幸に押しつぶされているだけでなく打開していくという事を学んだ気がした。 しかし精神的ダメージは大きかったのである。 幸子は積極的に手を打ったという程ではなかったが、世の中に信頼できる人物ばかりではないと、身をもって体験した。 犯人がお金に困ったからという理由で罪を犯したのは、二人にとって理解できるようで本当には理解できなかった。 

     二人は犯人の甘え、罪悪感の薄さ、恐れを知らないかのような振る舞いをする人間性を理解できなかった。
 
「こんな事までして・・・複雑な環境で育ったのかしら」と幸子は言った。 

「本当ね。 殺人よ。 まるっきり良心は痛まなかったのかしら」と恵子は言った。
心理学者ではないので犯人の心の奥底に潜む深層心理までは理解できない。いつの間にか道を踏み外し、軽い気持ちで罪を犯す人の心理を察するのはむすかしかったのである。 

「わずかなお金のために殺人だなんて」

「罪の意識に怯えることはなかったのかしら」

「見つからないと思って気にしなかったのよ」と、恵子は分析する。

「凄い」

真実と真相(64)

せめてお金の紛失を先に知っていれば、妻はこんなに衝撃は受けなかっただろうが使い道が言える事ではなかったので悪い事はできないものである。 島木は不覚だった事を思い知らされた。 妻にも職場の幸子にも多大な迷惑をかけた事を改めて実感した。

「本当に俺も驚いているんだよ。 確かにショックだ」と言って島木は適当に相槌を打っているが、島木は妻が次から次へと話しかける事に押し潰される思いだった。

10) いつもの二人

    幸子と恵子は晴れ晴れして、久しぶりに微笑みを交わしながら向いあっていた。 島木から事情を聞いて、幸子は疑いをかけられたという束縛から逃れて開放感を味わう気分は格別である。 これまでも恵子と連絡を取っていたが、スッキリ気分で美味しいケーキでも食べながら会う事になっていた。

     幸子は待ち合わせの場所に向かう途中の澄み切った空気、風に揺れてそよぐ樹の葉を見て、何だか新たな一歩を踏出して行けるような幸せを感じた。 きっと、刑務所から出て自由になった人はこういう気持ちなのかもしれないとさえ思った。 季節が変わり、周りが一変したような気分である。 

     向き合う二人はしばらく黙ったまま、ただ微笑んでいた

真実と真相(63)

「た、た、祟り・・・」

「そういうのは信じないって言うの? 別に信じるとか信じないは自由だけど」

「・・・」 何も答えない島木は、妻の言う事になじられているような怒りを覚えたが、無言でじっと我慢だ。
 
「ばれなきゃそれで良い、その考えがそもそも事の発端でしょう。 復讐心の塊に襲われれば祟りになるじゃない」と言う妻の一言に、島木は自分のしていることはさておき、屈辱的な言葉をあびせかけられ不愉快極りなかった。

「なんだか執念深いね」と、言って島木はゴクリと唾をのんだ。 このこだわり方に恐ろしいような気がしてきたのだった。

「当り前じゃないの。 邪悪なやつを退けるにはどうしたらよいかしらね。 こんな風に、私達にも知らずに悪魔が忍び寄っていたのよ。 たたきのめしてやる程度で気の済むことじゃないわ」と、言ってその悔しさを露骨に表した。

妻の心の底に眠っている激しい攻撃心に、島木は穏やかではなかった。 追い詰められたような不安と妻へのいまいましさを覚えた。 しかし島木は平静を装った。

「悪魔払いでもやってもらいたいわね。 悪魔、悪霊、怨霊が貴方に憑依しようとしたみたいな気がしてならないわよ。 犯人にしっかりマークされちゃって」

「ちょっと、それ、神霊現象の番組の見過ぎじゃないのか」と島木が言うと、妻はにらみつけるような顔をして島木の顔を見た。

真実と真相(62)

「そうだね」と、島木は低い声で言った。

「地獄へ落ちればよいのよ。 のた打ち回って地獄界で苦しませてやりたい」

「ヒェー」

「きっと犯人は今まで自分で呪われた人生にしてきたのよ。 裏切りも殺人も、やるにはそれなりに決断が必要なはず。 正当防衛でもなければ恨みもないのに殺人だなんて」

「衝動的にやったのだろう」

「衝動的? それでちゃんと大阪に逃げるの? 逃げる時だけ計画的になる訳? 人のお金を逃走資金にしてね。 フン! 子供じゃあるまいし、ふざけたやつ! 仮に逃げきっても、呪われるのかもしれないわ。 そう思わない? 」

「さぁ、その辺の事は・・・」

「心に深く刻まれた恨み、怨念」

「そういうレベルの話に発展するの?」と、島木は言葉を濁した。

「そういうレベルって言うけど、生霊は怖いって言うじゃない。 生き霊の呪い! 良く不倫で思念を飛ばして、恨まれた相手は健康状態を悪くするって言っているわね。 呪いや怨念というより祟りという表現がふさわしいかな。 とにかく憎らしい!」

真実と真相(61)

「俺は金だけで命は奪われなかったけどな」と、苦しさ紛れに島木は言った。

「それにしても忌々しい。 盗られてこのまま引き下がるしかないとは。 何としてでも因果応報を実証されないかしら」と、妻はうなった。

島木はやっぱり女はこだわるな、と思いながら表面的には静かに相槌を打ってみせた。

「ただでは置きたくないわ。 人のお金を逃走資金にしたのよ。 憎らしさで寒気を覚えるわ。 取られてこっちは泣き寝入りか・・・どうしてこんなことになったかしら・・・ ただ運が悪かっただけなのかしら・・ 」

島木は、しばらくこの話を聞かされなければならない。 グサリグサリと刺されてそのうちめった刺しにされていくような気がした。 この話いい加減にやめてもらいたいと虫のよい事を思った。 

「報いを受けるのよ。 自分のやったことの報いを。 当然の報い!」

「ウワー」と、島木は溜息混じりに声を出すが顔が青ざめていた。

「こんな事何かの間違いじゃないか、何だか雲の上にいるみたいな心境よ。 信じられなくて。 それにしても人を欺いて生きるって、どうなのかしらね。 そんな生き方、どう思う? ああ悔しい。  憎らしい犯人!」と言って軽くテーブルをたたいた。

真実と真相(60)

「そのうち手錠をかけられたままこっちの方まで来て、頭から何かかぶって車から降りるのね。 警察立ち会いのもとに、犯人が指さしながら確認作業をやるんじゃないの」

「・・・・」

「来たら顔でも見に行ってやろうかしら」

「ええっ」

「暇つぶしの野次馬根性じゃないわ。 顔が見たいのよ。 その顔が」

「・・・」

妻はなおも続ける。 怒りが憎しみに変わっていったようだ。
「しかし悔しい。 殺害されたご両親の気持ち、本当に体験しないと判らないかもしれない。 絶対許せないというのが正直な気持ちよ。 許されるならその手で締めあげたいって思うでしょ」

「・・・」島木は無言でうなずいた。

「とんでもないやつだわ。 それにしても、女子学生は何て不運なんでしょう。 何も悪い事をしていないのに痛ましい」と、妻は完全に憎しみと無念さをあらわにしていた。
当分この話題になるのかもしれない、と島木は針のむしろに座らされるような気がした。

「人の命、お金、奪っておいてヌケヌケとどこ吹く風で生きていくつもりだったとは・・・ろくでなしが・・・」
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年齢不詳で正体不明

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