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真実と真相(59)

     「いつかきっと解ってしまうのよね。 悪い事すると。 ばれないとでも思っていたのかしら」
     「そ、そうだね」と、島木は言ったが内心グサリときた。

     「過去にばれなかった事件もあるのかもしれないわ。 でも、天罰が下るのね。 今度こそ死刑になるかも」と、妻は言った。 しかし次の瞬間、日本は殺人でも刑は軽いので、何年かして出てくる可能性の方がずっと強いと思った。 軽すぎる!と、心の中で叫んだ。

     「ほんとだね」と言っているが島木は、心中穏やかではない。 少し沈黙があったかと思うとまた妻が話しかける。

     「お金を取られて悔しくないの」
     「く、悔しいよ」
     「こっちは節約して生活費を切り詰めてやりくりしているのに。 あんまり悔しそうじゃないわね」
     「・・・」ビクッとする島木は言葉がない。 ジワリジワリとなじられているような気がした。
     「警察は犯人を伴って、殺人現場に来ていずれ現場検証に来るらしい。 刑事さんがそう言ったわ」さっきまであんなに心配していたのに、時間がたったら心配が怒りに変わっているようだ。
     「そ、そうか」
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真実と真相(58)

     妻に見捨てられたくないというより、これまでの安定した生活を壊したくないと思った。 安定した環境、家庭、職場、付き合いを失い、何よりも妻に大きなショックと取り返しのできない苦痛を与えることになる。
 
     それ以上の質問になったら、口裏を合わせてくれる人がいなければ説明のつかないことであった。 それこそ自供に追い込まれるのではないかと、内心うろたえる島木であった。 矛盾無しに話を作るのはむずかしいのである。 

     「すっかり、脅かしちゃったな。 本当にお金を無くした事を言っておけばよかったよ」と島木は顔を引きつらせながら反省して言ったが、妻は半信半疑で押し黙ったまま島木を見つめ続けた。 島木はちょっとした不倫に、有頂天になっていたことを思い知らされた。 まかり間違えば全てを失う。 

     しばらくして妻は「貴方は後をつけられていたのね。 怖い話だわ」とポツリと言った。 
「全然知らなかったよ」と振り絞るような声で島木は言った。 
まさか、あの日彼女と逢うところまで尾行されていたのではないだろうな。 島木は冷や水を浴びる思いで愕然としたのである。

真実と真相(57)

     不倫が発覚すれば、妻の性格は真面目なので、割れてしまったガラス細工のように壊してしまったら2度と元には戻らないと諦める感じの性格だった。 許すことが出来ないという怒りではなく、失った人間関係を回復しにくいと考える人だったので去っていく可能性が高いため島木は青ざめた。

     妻に償いきれないほどの心の傷を負わせることになる。 島木の裏切り行為による怒りと失望をぬぐい去るというのは簡単なことではない。

     妻は衝撃を受けて、ただ言葉にできないほど驚いて島木の顔を見つめていた。 それはまかり間違えば、女子学生と同じ結果だった恐れもあるという事を重ね合わせて考えていたからである。 そこまで見つめられると島木も穏やかな気持ちはしなかった。 その驚きように、疑いをもたれているのではないかと錯覚し、次の質問が妻の口から飛び出すのを恐れて穏やかではなかった。

      家族への裏切り、社会的にどう見られるか、最終的に自分自身の絶望感へとつながってゆく。 島木は青ざめた。

真実と真相(56)

島木は動揺を隠せなかった。 そこには島木だけが知っている衝撃の真実が隠されているのだ。 妻は島木を信じきっている。 

「そんなにたくさん持ち歩いたのは、たまたまあの時だけだよ。 会社でなくなったのは確かだけど、もしかしたら落としたのか、盗られたのか、自分の勘違いかもしれないと思った」

「ええっ! 勘違いなんてことないでしょ。 落としたかもしれないなら、落としたと言ってくれていたら、こんなに驚かなくてよかったのに・・・」と、単純に心配している妻である。 
「振り込めばよかったのよ。 今は怖い世の中になっているんだから」

「直接会うので渡す予定だったんだ」

「ええっ! それじゃ渡せなかったんじゃない。 それでどうしたの」

「事情が変わって、支払はしなくて良いことになったので助かったよ」

「ええッ! そんなことってあるの・・・ 何の支払いだったの」

島木は口ごもった。  
「車の修理で・・・結局修理はしないで大丈夫だったので、代金は払わずに済んだ」と小さな声で言った。 

妻は取調官ではないので、何時ごろ、どこの修理店でどこを直そうとしたのか、担当者の名前を言え、見積書はどうなっていたのかその証拠として出せ、などということころまでは問いつめかなかった。

真実と真相(55)

     夜になり、島木が家に帰ると妻は警察からの説明のいきさつを話した。 島木も改めて妻の驚く姿が伝染し、金縛りにあったように身動きできなかった。 島木は、しばらく無言でじっとしたまま妻の驚きで心臓が止まるような思いを被せられた。

     自分が、犯人に様子を探られていたとは・・・色々な考えが頭を交錯した。 「やはりあの時のお金は部外者に盗られていたのか。 しかし、よく捕まったな。 大阪へ逃げていたとは・・・」と、島木は感心しながら言った。
犯罪と無縁に生きる島木は捜査活動の詳しい知識が無かっただけに、よく捕まったものだと警察の活躍に驚いた。 それにしても、今頃になって島木に大変なスリルとなったものである。 

     島木は元々遊び癖の悪い男ではなかったので、妻は島木に何の疑いを抱いてはいないようだ。

     「危なかったわね。 どうして、そんな大金持ち歩いていたの」と、妻は心配そうに言った。 警察からの電話で驚きが甦り、いつになく力のこもった話し方だった。

真実と真相(54)

     警察は事件の取り扱いに慣れていたので、冷静な説明だったが、妻は違った。 犯行のいきさつを聞きながら、理解すると時折「はい」と絞り出すように納得の返事をするのがやっとという感じだ。 

     電話中、妻は緊張で息をのんだまま呼吸を止めていたらしく、時折大きく息を吐いていた。 何が何だか解らないとはいってもしっかり説明は聞き届けた。 電話を切る時には、手がねっとりするくらい汗をかいていたほどだ。 

     電話の後も驚きで頭の中は真っ白なまま、平常心を取り戻すのに時間がかかった。 自分の知らないところであの事件に巻き込まれていたことに、ただ信じられなかった。  妻は、逃走資金の出どころで犯人と夫が思いもよらない所で縁があった事にただ驚くばかりだ。 犯人との結びつきの驚きがあまりに大きくてしばらく部屋の中で立ち尽くしていた。 冷静に考えてみると、夫は何も言っていなかったが、そんな大金どうして持ち歩いていたのだろうと思った。 

     夫に電話しようと思ったが、慌てて連絡しなくてもあと数時間で帰ってくるので会社には電話はしなかった。 それより電話で話を蒸し返すエネルギーがなかったと言った方が正解だ。 ため息をつきながらも、夕食の支度に取りかからなければならない。 しかし呆然としてしまうのであった

真実と真相(53)

     大成功だったので、しばらくは何とか食いつなげる。 それでもお金がいつまでもあるものではない事は承知していた。 しかし、その後のひったくりに失敗して面倒な事になり、これが逃走資金につながるとは市場は思いもしなかった。 殺害後、しばらくカップラーメンで飢えをしのぎながら極貧生活を続け、ほどぼりが冷めると、大阪へと逃亡したのだった。

9) 動揺

     殺人事件の話題も薄れた頃、島木の妻は洗濯物にアイロンをかけていた。 市場の自供により事件の真相がはっきりすると、直接警察から島木の家に連絡が入った。 

     リーン、リーンと電話が数回鳴る。 「はい、島木です」と、妻はさわやかな声で電話に出た。 「株田警察の山田です。 島木さんでいらっしゃいますね」と言われ、妻は何事かと一瞬驚いた。
「はい、そうです」 どうして警察が・・・ 一瞬驚く。

     電話は、犯人逃走の資金が島木から奪ったという本人の自供が得られたという内容であった。 妻は話を聞いている間中、受話器を持つ手に力が入っていた。

真実と真相(52)

     手元から邪魔な封筒を手離したのはとっさの行動だった。 この作業は、本当に素早くわずか数秒でやってのけることができた。 市場は用があってそこを通るかのように、自然に出入口へ歩き出した。 

     そこから一目散に走って逃げ去りたいところだが、早歩きで平静を装って会社を出るため顔を隠すようにうつむいて階段を下りた。 もうすぐ昼休みになるので、席に戻ろうとする人がエレベーターを使うので混み始めていたのである。 

     一階に降りると広々とした受付や空間があるが、都合良く出入り口の守衛には名札を付けていないことで呼び止められずに済んだ。 もう少し人が少なかったら、間違いなく呼び止められたのだが。 守衛を背にしてさりげなく門を出てしまえばもう大丈夫。 巧みにその場を逃げ去り犯人は一安心するのであった。 

     こんなに上手くいくとは思わなかった。 すごい収穫があったと、上機嫌である。 電車の中で、市場は探ってみる価値はあるものだな、と思いながら思わずほくそ笑むのであった。 

真実と真相(51)

     それでも人に見られやしないかとヒヤヒヤものだった。 犯人はしゃがんだままさっと島木の内ポケットから封筒を取り出し、素早く中を見るとやはり思った通り現金だった。 確認のつもりで封筒の中をみた瞬間、無意識に現金を抜き取って作業ズボンの中に入れた。

     しゃがんで身を縮めていたので、尻もちをつきそうになり前の椅子が目に留まった。 すると、ちょうど椅子の上に女の子らしいカバンがある。 高級ブランドではないが、お弁当や手帳、化粧道具などが入っているような感じだ。 鞄は留め具で口を止められているがファスナーでしっかり閉ざされているタイプでなく、持ち手が上を向いて立たせるように椅子に乗っていた。 

     ひっそりと財布がしのばされているのは見当がつく。 何かの用で、鞄を出して席をちょっとたったのは明かだった。 持ち主は、すぐにでも戻る感じがする。 手を延ばし、中を見ようとしたが深さがあるのでそこから財布を盗み出すのは無理と判断した。 数秒のことだがそれ以上そこにはいない方が良い。 こちらの財布も頂きといきたいのはやまやまで、無念だが辞めた。 

     立ち上がる瞬間、邪魔になった封筒はそのカバンにさらりと落とすように入れた。 全額抜き取ったつもりだったが、あわてていたので数枚残してしまっていたのだがそれには気づいていない。

真実と真相(50)

     市場は島木を見つけた瞬間、内ポケットを調べる姿を思い浮かべた。 しかし服装が違いすぎて、机の並ぶ事務所の中をウロウロ歩きまわる事は絶対にできない。 行き場をなくし、仕方がないので階段横のトイレの中に隠れて身を潜め、冷静に次の行動を考える。

      トイレの個室の中で自分に言い聞かせるように呼吸を整えた。 比較的静かなこの雰囲気ではあまり色々な所を歩けない。 立ち回りが難しいので慎重に行動する。 トイレから出てもう一度さっきの部屋を覗くと、あの時より席はそれほど埋まってはいない。 午前中の忙しい時間で、席をはずす人もいるせいかさっきより人が少なくなっていた。

     島木も自分の席にはいないが、上着は椅子の背もたれに掛けられたまま、傍で数人で会議をしている。 今だ。 この感じならいける。 大丈夫そうだ。 うまくいくぞ。 わけのわからない自信に取りつかれ息を殺しながら犯人は壁にそって足早に歩くと、すぐに島木の席へ行って背を壁に向け机やいすに身を隠しながら何か拾うようにしゃがんだ。

     この判断は本能的に沸き起こってくるものだった。 強い力に押されて動いているかのようだ。 片側が壁なので、人目の心配は気をつける範囲に180度に狭まっている。

真実と真相(49)

     貴重品は各自引き出しの中だし、取れるものは見当たらない。 何所へ行ったのやら、さっきのメンバーの姿はみえない。 市場はさりげなく廊下を歩き、所々に出入り口があるのをちらっと見て確認した。 

     一つのフロアーはいくつかの部屋に仕切られているが、あまりパーティションは置かれていないので、ある程度見渡すことができる。 犯人は廊下の行き止まりに近い出入口からそっと中をのぞいた。 あっ、あの男だ、偶然だがその部屋に島木がいた。 大きな窓から光が入り、程よいスペースで机が並んでいて島木は壁側の席だった。 席について何やら書類を広げて慣れた姿で仕事に取り組んでいる。 

     客観的にみると、島木は品の良さがあった。 結婚しているのに新たな恋をするだけの若さというか、彼なりの魅力を持っているのが解る。 これだけの大きな会社で、入口をのぞいて直ぐに島木を見かけるなどよほど縁があるのか、びっくりした。
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Author:マドンナお吟
年齢不詳で正体不明

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