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真実と真相(48)

     緊張しながら市場はその作業服の一団からちょっと遅れて歩き、外からはまるで仲間のように装いながら会社の中へうまく入り込んだ。 金目なものなら何でも良いから物色して盗み出すつもりだった。 うまく潜り込み、ロッカーに入れるかもしれない。 そうすれば何か見つけられるだろう。

     少し離れて一団の後を歩き、社内に入ってしまうと作業員の一団に近づいた。 彼らはエレベーターに直行してエレベーターか来るのを待っている。 市場も一緒に乗ることにした。 エレベーターのドアが静かに開くと皆が乗り、市場はうつむき加減に一番最後に乗るやいなや、クルリと体を扉の方にむけてエレベーターの隅に立った。 流石に大きな会社だけあってエレベーターの中は広くて大勢乗れるようになっていた。 

     一団がぞろぞろと4階で降りるのを確認した。 そこまで付いていくと顔を見られるので、犯人は一人で中に残り5階まで行ってとりあえず降りる事にして、階段で4階に下りてみた。 足早にきれいに磨かれた廊下を歩くのは、心地の良いものではなかった。

     事務所の中をさっと見回したが、すぐに盗み出せる金目の物などなかった。
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真実と真相(47)

     何やら大事そうにしているが、あの内ポケットには・・・市場にピンと来るものがあった。 それにしても、偶然二日続けて見かけるとは思っていなかった。 その時、市場は島木の家を狙うより、社内に忍び込めるかもしれないと直感的に思った。 

     思い立ったら行動。 市場は現場関係の作業服を持っていたので、そのまま家へ帰り作業服に着替えた。 この格好でうまく忍び込めるかもしれない。 そして昨日後をつけた、あの会社に侵入しようと思った。 道順は、解っている。 市場はひとり、昨日行った会社へと向かった。   

     入口に守衛がいて、関連会社を装っても社員証を身につけていないので社内には簡単には入れなかった。 出勤時間はとっくに過ぎているのであまり人の出入りはなかった。 建物が二棟あるのでそこを行き来する社員がまばらにいる。

     タイミングを見計らい慎重に構えて不自然にならないよう、しばらく人目につかないところに立っていると、昨日見かけた作業服のメンバーが少しばかりの会話を交わしながら通りすぎた。 渡りに船だ。 こんな所で立って待った甲斐があったというものだ。

真実と真相(46)

     中にはきれいな若いOLも交じって出社する様子を一本の道路を隔てて眺めた。 もちろん島木や幸子は、社員の一人だったのである。 入口には守衛がおり、警備も厳重なようだ。 犯人とは違う世界で生きるサラリーマンである。 あの男はここに勤めているのか、きっと中流以上の生活を保障されているだろう、とひそかに思った。

     そのまま眺めてぼんやり過ごし、9時を過ぎて出勤時間が過ぎると、まばらに作業服の人物が出入りしているのを見た。 日雇いの仕事をしていた時の、自分になじみ深いあの作業服だったので目を引いた。 会社は新規事業を受注するたびに関連会社の社員が常駐するので事務所のレイアウトを一部変えるのは珍しくない。 そのたびに請負の作業員が簡単な改装工事をするのである。 市場は工事関係の人間も出入りしているのだと知ったが、その場はそのまま引き揚げた。 

     市場は翌朝、物色して歩いていると、また出勤途中の島木を見かけた。 彼は立ち止まると内ポケットから封筒を少し持ち上げ、慎重にそれを戻す仕草をしていた。

真実と真相(45)

     市場は偶然自宅の玄関から出勤しようとして出てくる島木を見かけた。 早朝だが、どこか盗みに入りやすい家を見ていたのだ。 島木を見てこの家に住んでいるのか、と市場は思った。 道路に面してちょっと忍び込みにくい位置にある家だった。

     もちろんうまく侵入できるような所を念頭に置いていたのは事実だが、会社に向かう島木の後をそのままつけてみた。 それは計画的ではなく、フラッと魔がさすようにそうしたのだ。 特別な思いつきや考えがあったわけではないが、手っ取り早くお金を手に入れることはいつも頭のどこかにあった。 

     島木が駅に着くと、後を追う市場は最低距離の切符を買うと同じ電車に乗ることにした。 島木は2~3分ホームで電車を待っている。 市場は近づきすぎず少し離れて立っていた。 混んだ電車が来ると一緒に乗り込み島木の降りる駅で降りた。 市場は乗り越し清算している間に混雑する改札で島木を見失った。

     駅から会社までついていけなかったが、大勢の社員が同じ方向に向かうのでその方へと行ってみた。 市場は会社に入ることはできない。 島木の向かったと思える立派な会社には、背広姿社員が入口からどんどん飲み込まれていくのを、市場は離れた所かを見ていただけである。

真実と真相(44)

     供述したからそれで終わりではない。 捜査官の追及は続き、全貌をさらに明らかにしようとした。 殺人を犯してまでわずかなお金をアルバイト学生から奪って、ここまで移動してくる逃走資金の出どころが不明である。 

     殺害された学生はそれほど現金を持ち歩いてはいなかった。 これは東京の捜査本部が明らかにしている。 事件後の生活費や、引っ越して大阪まで来る交通費などどうやって手に入れたのか? 市場はカップラーメンで過ごす日々が続いたと言っているが、細かい資金の流れを探ると不可解な点である。

     次々と出てくる疑惑を一つ一つ糸をほぐすように解明していく。 これらの残された疑問点を市場が全てを供述したことで事件は解明に向かった。 生活費と逃走資金はどのように手に入れたのか。 ここに島木との接点があったのだ。 

8) 接点

     島木と無関係に思われていた殺人事件だが、 当時市場は無職で島木の家からそう遠くない安アパートに住んでいた。

真実と真相(43)

     市場はひどく後悔している様子だが、やはり犯罪は犯罪である。 ひったくりどころか、強盗殺人で再逮捕である。 犯人は元気をなくししょげかえっているが、やり場のない悔しさも同時にこみあげていた。 人の痛みは何ともないが自己愛だけは強いようだ。 

     涙など浮かべて、この野郎! 取調官は人をさんざん手こずらせて、と殴ってやりたい気がした。 市場は「これまで嘘の供述を申し立てたことを申し訳ない」と詫びているが本心かどうか疑わしいものだと、取調官は思った。 同じように遠山警部は、犯行がばれた事で犯人は意気消沈しているだけで、こういうタイプの人間はまた犯罪を繰り返すだろうと思った。

      人の事はどうなってもよいという、根本的なふてぶてしさと、どうでも良いという投げやりな性格であると判断したからだった。 おそらく犯人が悲嘆に暮れるのも、ほんの短い間だろうと見ている。 そう思うと、遠山警部は憎しみの気持ちがわき起こり、市場の顔も見るのが嫌であった。 

     遠山警部は仕事に遣り甲斐を感じることも多いが、こういう気分になる時は嫌な職業を選んでしまったと苦々しい気分にさせられた。

真実と真相(42)

「また嘘の供述じゃないだろうな」と取調官は言った。 
「嘘じゃない」と市場は叫んだ。 
「これまでも、随分いい加減な事を言っていたから信用できない」
「本当だ」 
「金目当てと言って。 本当は強姦するつもりでいたのではないか。 騒がれて殺害したのだろう」
「違う。 この話は全部本当だ!」

     今度は強姦目的の疑いを掛けられた。 しかし、取り調べで二転三転と供述を翻していないので、どうやら本当らしい。 あらかじめバットを用意し、帽子やマスクをして顔を隠していなかった話の内容から、とっさにやった犯行は大筋で事実であると警察は判断した。

     東京での事件後、外には警察が絶えずいるし外出すると職務質問などをする刑事が煩わしかった。 ましてやその騒ぎと捜査が及ぶようで嫌気がさし、引っ越す事にしたという自供した。

     市場は全てを明るみに出してもはや逃げらないこと、後悔と無念と悲しみで一杯だった。 犯人は次から次へと問い詰められて結局20日間くらいかけて空き巣狙いと殺人のすべてを白状することになった。

真実と真相(41)

     市場はあの日の夜、あまり人の通らない細い道で偶然女子学生とすれ違い、とっさにカバンをひったくろうとした。 そこは車が来ないし脇道や多く暗くて顔もよく見えないので、うまくいくと思った。 

     奪い取った瞬間、バッグの肩紐が長かったので被害者は紐をしっかり掴んで「キャーッ」とすごい悲鳴を上げた。 市場は力任せに引っ張ったが、思いのほか彼女は紐にブル下がるようにつかんでいた。 カバンの紐にしがみついて、のた打ち回るようにズルズルと引きずる格好で数メートル進んだ。 

     その道には外套が所々にあり、バッグを引っ張りながらその明りの下まで来てしまい被害者に顔を見られた。 何と言っても物すごい悲鳴に困り、黙らせようとして思わず首を絞めたというのだ。 

     市場が気づいた時には被害者はぐったりしていた。 市場はすぐそばの空き地に、動かなくなってようやく静かになった被害者を引きずり放置した。 そしてカバンの中から現金だけを奪ったというのだ。 話し終わった後、市場は周りにいる人間など意識に無いようであった。 ほとんど座っていられないような状態になっていた。

真実と真相(40)

     翌朝、数日ぶりに現れた遠山警部は容疑者をうまくなだめた。 「何もビクビクする事はない。 罪を償う覚悟をすればいいんだ」と。 

     市場は次第に様々な思いにふけった。 市場は後悔で半狂乱になりそうな気がした。 おののきと不安と恐怖の苦痛を取り除きたいという気分でどうにかなりそうだ。 気絶寸前の状況である。 
「勇気を出して真人間になる事を考えた方が良い」と力強く説得する。 犯人に絶望感が押し寄せすっかり元気をなくしている。 

     拷問にも近い追及に人間なら我慢の限界がある。 警察は、あの手この手で同情したり理解を示した。 

     市場は拘束されながらもきちんと食事を与えられ、逮捕直後は嘘を交えて話していたが、ようやく涙ながらに一転して殺害の事実を認めたのだ。 「殺すつもりはなかったんだ。 信じてくれ!」 ついに犯人は耐え切れず一部始終を話し始めた。

      取調官は精神状態を配慮しながらやっとのことで事情を聞き出すことに成功したのだ。 そこまでに至るには長い我慢比べのようであった。 警察は粘り強く犯人と向き合い、執念で自白へと追い込んでいった。  殺害を認めたが、殺意を持ってしたことではないと強く否定した。 

真実と真相(39)

     もはや、殺人事件の自供も時間の問題であった。 事実上「東京で起きた未解決の殺人事件」はそこで殺人の疑いで再逮捕へと繋がることになっていく。 

     朝から晩まで市場はたまったものではなかった。 夜になると「早く罪を認めて、ゆっくり休むとよい」と、警官は怒った口調で言った。 市場は天を仰ぎ見回すと拘置所は自殺防止の策がとられているのが解った。 市場は絶望的な気がしていた。

     遠山警部は、お世辞にも知能犯とは言えないな、と思った。 警察の扱う事件には、こういう計画性もなくその場しのぎの犯罪は珍しくなかったので慣れている。 冗談でもスケールの大きい巧妙な手口の罪を犯す知能犯とはいえない。
 
     市場はどこへも逃れることができず震えながら頭を両手で抱え込んだ。 そしてうめき声を漏らすこともあった。 訳のわからない恐怖におびえているようだ。 恐怖に取りつかれてどうにも我慢できない感じで取り乱している。 たった今、天変地異でも起きてこの世が終われば良いとひそかに心の中で思った。

真実と真相(38)

     適正な取り調べを心がけようとしているが、捜査官も焦りを感じる時もあった。 しかし市場は簡単に殺人を認めはしない。 

     「拘置所に延々と監禁されているつもりか? 認めて刑を受けてしまった方が早くかたづくぞ」と捜査官は言った。 取調室は、机と椅子があるだけの狭い部屋で小さな小窓があるが、容疑者の気分転換を図るサービスための窓ではない。 息が詰まる。 警察は経緯を詳しく調べながら市場を追いつめていった。 

     「お前がやったんだろう。 本当のことを言えっ!!」と、威圧的に言って市場の座っている椅子を思いっきり蹴飛ばした。 抵抗できず、もはや追及から逃れられないのである。 別の人物がやってきて「まだ若いからやり直しがきくじゃないか。 洗いざらい話して罪を償ってもう一度やり直した方が良いと思うが・・・」などと説得し、宗教人のように罪を認めてやり直すことを穏やかに諭す警官が取調室に来ることもある。      

     入れ替わるようにして別の人物が現れると容赦ない尋問で「いい加減に観念しろ」とガミガミ言われた。 その調子で密室に拘束された日々が続く。 殺人を認める気はなくても、どうする事も出来ない状況になってきた。                                                                                                                                                                                                  

真実と真相(37)

     流石に市場は、この件に関して素直に供述する気はなかった。 警察はどこまで市場の言う事に信憑性があるのか、とにかく本人の行動を細かく聞くのであった。 その都度供述を翻す市場に、警察は全容解明に向けて全力で向き合った。 殺人の疑いで取り調べが始まっているが、市場はまたしても黙秘ししている。
 
     市場は東京の住まいを言ってからというものは、恐怖感に襲われ寝付けない日もあった。 捜査官を逆恨みして、やり場のない怒りに震え憎しみの気持ちを増した。 これまでも供述を二転三転と翻すたびに、かなりの揺さぶりをかけられていた市場である。   

     「往生際の悪い奴だ。 いつまでもこうしていないで、正直に言ってしまえば済むんだ。 身元引受人はいるのか?」という取調官の言葉に、容疑者は動揺した。 市場のこれまでの行動は決して良くなかった。 パチンコや競艇などの賭け事も多かった。 親に心配をかけ家族に迷惑をかけ続けていたのは事実だ。 

     取り調べ中は机をたたいたり怒鳴られたりして威嚇され、毎日黙秘して済まされるほど甘くはない。 犯人に騙されていては警察の仕事が成り立たないので厳しい追及が続く。

真実と真相(36)

     東京の警察は引っ越した人物を追っていたので、なおさら捜査本部に連絡が入れば調査はしやすい。 それにしても単なる空き巣狙いの余罪から、急展開である。

     「数か月前、タカウラ通り近くで何が起きたか知ってるな」と、厳しい口調で取調官は言った。 市場は殺人現場近くに住んでいただけに殺人の疑いは持たれるのは明白である。 「あの事件とかかわりがあったから大坂に来たんじゃないのか」と、言って今度は殺人容疑で尋問が始まった。 

     市場は素直な態度でスラスラ答えたりはしない。 「被害者家族は相当のショックを受けているんだぞ。 被害者の学生は元気に学校やアルバイトに行っていたんだ」と、言って睨みつけた。 市場は事件当日の証明できるアリバイはないが、犯人である決め手がなかったのでうまく免れ、かわいそうに第一発見者が疑われていたのだった。 殺害に及んだ凶器がなかったので市場が犯人とは断定できないが、疑わしい。
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Author:マドンナお吟
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