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不倫 第34回

     「あなたが未亡人だとは知りませんでした。 自由で羨ましい限りです」


     「自由にできますが、やはり一人というのは寂しい時がありますね。 でもこの生活は長いので慣れました」


     「家族がいても良い時ばかりとは言えません」などと言うと傍らの長いすにゆっくり貴子を推し倒すと両手で彼女を包んだ。 


     「僕で良ければなんでも相談に乗るつもりですよ。 あなたは優しい方ですね」と譲二は貴子の耳元でささやくと、貴子は自分を嫌ってはいないという手応えを感じた。 


     譲二の顔は微笑んでいたのであるが、薄気味悪い笑いを含んでいた。 譲二の立場なら、これほど好都合な事はないのではないだろうか。 恋愛感情のもつれは起きそうにないし、成熟した人間同士、貴子なら未亡人となってからも色々あったはず。 譲二が結婚しているのは百も承知の上でのことで、お互いの事情は解っているのである。 譲二は借金の事など頭からすっ飛んで、毎日楽しくなってきた。 二人とも話題が豊富なので話しが弾むのである。 


     一緒に美術館に行ってからというもの、譲二は時々やって来るようになった。 貴子は、譲二が来るのを楽しみにするようになっていたし、譲二との関係を断ちきるつもりは無かった。 それというのも、譲二が程よく家庭と妻に干渉されない状態にあるし、貴子は長く一人で暮らしていたという寂しさもあった。 譲二は家が好ましくないと思っているし「息が詰まっている」という意味を色々大変な事もあるだろうと理解していた。 貴子も自分に有利な解釈をしていた部分はあった。 譲二はたまに会いに来るだけだったのが次第にエスカレートしてきた。

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不倫 第33回

     譲二は「良かったら今度、展覧回に行きませんか」と、すかさず貴子の手を握るとまではいかないが、さりげなく触れる程度にさわったかと思うとそれ以上の事はしないで自分の手を素早く引き戻した。 


     「ええっ!」と一瞬息を呑んで驚いた様子だが冷静に貴子は答えた。 「ええ、そうですね」思わず、貴子は譲二の顔を見るが、譲二は何事も無いかのように僅かに微笑んでいるのであった。 


     「チケットがちょうどあるものですから。 それじゃあ、もしよければその時は食事でもしましょう」と平然とした自然な口調である。 


     「お誘い下さって嬉しいのですが、良いのですか?」と貴子は口篭もるように答えた。


     「大丈夫ですよ」   それとなく打診してあいまいな約束を取り交わし、しつこく言わずに仕事の話をしてその日は立ち去るつもりだ。 用件が終ると譲二は帰るが、また頃合を見計らって訪ねるつもりだった。 貴子は突然の誘いに嬉しいような困ったような気がしたが、ちょっと若い娘のデートに誘われたような気がしたが、やや複雑な気分であった


     暫くして譲二は貴子の所へ計画通り行ってみると、貴子は一瞬戸惑っていたが嬉しそうでもあった。 美術館の件に関して、二人とも時間的融通がつき、貴子は断る理由もみつからないので、絵を見て取引先との食事くらいはあっても良いのではないかと思った。 譲二の誘いの話しはそのまま進められていったのである。 譲二は貴子が誘いをはっきり断らない所を見ると大丈夫だと思い、世間話と身の上話が混じる中譲二は貴子との距離を縮めたいと思った。 


     「お一人で店を経営し、ご苦労もあったのではないですか?」


     「ええ、でも従業員に恵まれていたし、ずっと続けてこられて良かったと思っています。 大変な時もありましたが今は充実しています」

不倫 第32回

     二階に招かれてみると、部屋は明るく今風の機能的に出来たマンションのような作りであった。 気の効いた豪華マンションのような感じである。 さすがに店を持つだけの事はあって家具と部屋が程よく調和されていた。 テーブルの上にシンプルに置かれたバラの花のずっと向こうに、大きく光を取り入れている出窓にカーテンがとめられていた。 静かな音楽の流れが似合うような洋風の部屋だった。 奥に座敷も一部屋あったが、その和室がまた簡素で良い部屋だった。 


     一人なので必要以上の物は無かったが、そのセンスやこだわりからして相当の余裕があり、引退を決めても全然困らない訳である。  譲二は、ウキウキした気分で二階に上がり、貴子が好んで選んだと思われる繊細なカップでコーヒーをご馳走になった。 譲二はその清潔感のある部屋にすがすがしさを覚えた。 譲二の家は子供達がいるのでどうしても色々な物があり、部屋をスッキリさせるのは難しかったのでなおさらそう感じたのである。


     「今日はできあがったデザインのサンプル持ってきました。 幾つか作りましたから。 なるべくご希望に添うと良いのですが」 


     「ありがとう御座います。 ゆっくり選ばせてもらいます。 わざわざ持ってきていただけるとは思っていませんでした。 でも、助かります」 


     「近いですからかまいません。 広々とした部屋ですね」 


     「そうですか。 日当たりの良いのが気に入ってます。 住宅街ですけど、お客さんも結構みえるし。 静かで便利な場所なので、二階を改造して正解でした」などと世間話をした。

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不倫 第31回

     夫が生きていた頃は海外出張があり、彼女は一時期香港で生活していた時もあった。 未亡人となった後、売り払ってしまったが別荘を持っていたし、いつもお金には苦労はしない環境にあったのである。 譲二がこれまで会った中で貴子は一番の金持ちといえた。 鼻高々とした態度が何処にも見当たらなかったので、全く人は判らないものだと思いながら、いつのまにやら譲二は言葉巧みに柔らかく彼女に接していた。  譲二は美術の知識は豊富であったので、彼女と油絵の話しで弾んで頼もしく思った。 無意識に、彼は親切丁寧に接していた。 


     貴子は稀にしか仕事依頼に来ないので、譲二の方から暫くして店を訪れてみた。 するとその時は一人従業員が店番とレジの仕事をしていた。 客がまばらになる時間だったので貴子は店にはいなかったが、出かけてはいなかった。 「デサインした見本をお持ちしたのですが」と言うと、「はい、お待ち下さい」と言って従業員はすぐに貴子を呼んでくれた。 


     貴子は奥から出てくると今度は店先での挨拶だけでなく、お茶でも飲んで少しゆっくりしていくようにと言ってくれた。  貴子の住まいは自宅兼店となっており、2階が自宅となっていた。 貴子の夫が生きていた頃、一軒家に住んでいたが手放して、店を改造して2階を自宅にしたのだった。 かつて住んでいた所は良い家だったが、一人で住むには広すぎるし、庭の管理を簡単にしたいし、何より旅行に出やすいようにしたかった。 子供がいないので、身辺整理を兼ねているといって良い。

不倫 第30回

「びっくりしました。 此方の方へもいらっしゃる事あるのですね」と貴子は言った。


「近いですが、あまり此方の方へは用がなくて来ないのですが、今日は此方を通ったものですから」と譲二は言った。


     商品は安い物から高級品まで様々で、誰でも足を踏み込める感じの見るだけでも楽しい店であった。 狭そうに見えるがかなり広いスペースの店で、綺麗に商品が並べられている。


「色々な物が置いてあるのですね」 


「ええ、幅広く変わった物を置くようにしてるんです。 偶然、今日は私が店に出てたんですよ」


「そうですか。 かわいい小物が多いですね。 実は私の家にもあるんですよ。 妻が添乗員をしているので、ヨーロッパアンティックがあります、今度家にいらした時見てみて下さい」


「そうだったんですか。 それじゃあ、是非」 などと少し店で話して譲二は帰った。 


     それがきっかけで、次に譲二の所へ仕事で貴子が来た時、色々な事を話したのだった。 夫を早く亡くして、店の経営を始めて頑張ってきた事や商品の仕入れの事など、貴子自身にも人生のドラマがあった。 話してみると、意外にも貴子は相当の財産を持っていると推測でき興味を持った。 地方出身らしいが以前は乗馬をやっていたらしく、ちょっとした生活のスタイルを聞いただけで余裕のある事は解った。 確かに店を持っているが、それほどの金持ちのようには見えなかったので譲二は随分意外だった。 貴子は譲二には話していなかったが、彼女は経済的には子供時代から非常に恵まれた運命にあった。

不倫 第29回

(8)不倫


     デザインの仕事をしていると、取引先との付き合いがあるが、彼は何とか儲けたいと考えているがこれまでも大きな収入には結びついていなかった。 取引先といっても個人経営に近く、縁あって図柄を頼みに来る客ばかりである。 パンフレット、シール、メニュー、パッケージなどのちょっとしたイラストや箱のデザインの仕事が舞い込んだりしている。 


     その取引先の中に、貴子がいた。 彼女はセンスの良いファッションで譲二の仕事場に稀に現れる程度で何度か会っているが、個人的な話しはしていなかった。 彼女は若者の感覚を備えた若々しい感じの56歳の女性で20年前くらいから未亡人であった。 若い時に夫を亡くしていたので、何処か独身者っぽい感じがする。 彼女の店にはオリジナルの手作り小物や雑貨、アクセサリーなど、変わった置物や輸入雑貨類を置いていた。 ひところは二店持ち従業員を4人抱えて、小規模ながらも順調に黒字経営を続けていたが、仕事はほどほどにしていずれ引退しようと考え店を1つにしていた。 今のうちに旅行を楽しみ、趣味の幅も広げたいと思い、仕事人生をこの辺までにしておこうとしていた。 その為、残した広くて売上の多い方の店に集中して仕事を広げる方向ではなかった。  


     譲二とはビジネスの付き合いだけであったが、譲二は偶然彼女の店の近くに行った時、お得意様の挨拶がてら立ち寄ってみた。 譲二は「お久しぶりです。 たまたま近くまで来たので寄ってみました」と言って訪ねると、驚いた貴子は口数の少ない方であったがその時は嬉しそうに店を紹介した。

新生活 弟28回

     この金額では妻には言い出せない。 言っても、自分で精算するだけだ。 こうなると、もう何処にも助けを求める事はできなかった。 破産宣告するほどの額ではないが、過去の身内への返済の痛手も響いて彼一人が自由に使えるお金で2千万は非常に大金であった。 ジタバタしても自分で何とかする以外にない。 自己責任であった。 


     譲二は完全に手を引いた。 通常のやり方で株を買って僅かに利益を出すのも諦めなければならないと思った。 ローンを返す方が優先されるからである。 手持ちの自己資金で僅かに楽しみながらやるのが一番であったと、惨敗した事に打撃を受けた。 短期間に、幸福を味わったり不幸を味わったりと波瀾であったが結果がマイナスなのだ。 流石の譲二も現実を受け入れ仕事の方でもう少し成果を上げるようにしなければならないと思った。嘆いても始まる事ではない。 


     幸子は譲二の株の失敗を知っているが、詳しい金額をあえて聞こうとはしなかった。 どうなっているか良く知らないが、子供ではないので自分できちんとやってくれればそれで良いと思い騒ぎ立てる事はしなかった。 譲二は遊びや贅沢な生活もかなりたたっている。 身に付いた生活スタイルがあり、その部分は改める気がないというより切り詰めるつもりさらさらない。 だからヨットを手放す気は無いのである。 ローンは自動引き落しで、返済は続けているが、このまま長引かせるのは重荷である。 サラリーマンのような退職金がないので、50代での2千万円は厳しい。 


     怒りとショックはあったが、譲二は平常心を取り戻すようにした。 借金だらけの生活は今始まったばかりではない。 それでも何とかなる、あまり思い煩う事はしないように心掛けた。 すでに50代となった彼は嫌でも将来の見通しを立てる年齢となってがわずかな焦りがあるが、なるようにしかならない。 譲二は趣味が豊富で優雅そうにしているが、結局綱渡りであった。

新生活 弟27回

     信用で株をやるこのような大金は珍しい話しとは思わないが、信用取引はリスクを恐れてやらない人が多い。 お金を手に入れても失っても、直接現金を手にするのではないので、取引では感覚が少しマヒするといえる。 それだけの利益を上げれば、それを元手に次の取引に挑戦する事が続いた。 自信がついて今度も上手くいければ儲けものだし、軍資金があるので大丈夫と思えてくるのは仕方がない。 そこで辞めて堅実な使い方をする性格なら、最初からあまり危ない橋を渡ろうとはしなかっただろう.


     このように儲けた以上、譲二でなくても夢は大きく膨らむのである。 失敗と成功を繰り返していたのだが、予想外の株価の動きに見まわれ、負けが続いた事で最悪の事態を招いたのだ。 遂に大きく2千万円というマイナスを出してしまった。 まずいことになった。 もっと大きなマイナスを出すケースがあるが、譲二は信用の割に傷は浅い方である。 これ以上の資金を投入できないし、深入りしたら泥沼だと判断し撤退するしかないと思った。 よけいなアドバイスをした証券マンに逆上して怒りをぶつけたものの、結局これ以上の深みにはまる事は出来ないので手仕舞いして終焉を迎えた。 この決断も早かった。 これも彼の引き際の上手さといえるだろう。 


     譲二は足から力が抜けるのを感じた。 通常の株取引なら失うだけだが、マイナスになってしまったのには参った。 譲二は、ほんのわずかな住宅ローンを残すだけとなっていただけにこの思いもよらない結末に無念であった。  損する場合があるのは覚悟していたつもりだが、やはり欲を出してカードローンを使ってまで取引したのが問題であった。 そうでなければ、今でも小遣い稼ぎを続けられたはずだったのに。 

新生活 弟26回

     そんな状態が3年ほど続いた。 もう少し資金があれば、もっとほしい物も買えるし余裕の生活もできる。 お金の心配など一切しないでヨットに乗って離れ小島の海辺に着いたら、冷えたビールで飲みながら景気良く人生を楽しみたい、と必ずしも不可能ではない夢を思い描いた。 彼は楽しみが多いのでやりたいことは徹底的にやりたいと思う。 実際、この調子でやってゆけば資金さえあればかなりの贅沢は非現実的な事ではなかった。 飲みに行くお金を出すだけでなく、もう少し儲けたいと思ってしまうのは無理もない。 


     譲二はじっくり値上がりを待つのは嫌いで短期の取引するうえ、上手く判断しているのを見込んで、証券マンから信用取引を進められた。 彼は不自由していないが大金は無い。 それでもやってみる事にしよう。 これまで自分の自由になるお金で株をやっていたが、信用取引をやる為にローンを使うことにした。 リスクは覚悟の上だが万が一の場合もあるので、大金のローンではなかった。 譲二は多少の心配をよそに上手く当たってかなり儲けた。 引き際が上手かったというのがポイントである。 思わぬ株価の動きにマイナスになる事もあったが、プラスが大きかったので数回繰り返しただけであっという間に8千万ほど利益を出した。 今のビジネスではとても稼ぎ出せない金額で、あと少しで一億ではないか・・・  


     信用取引は、決められた期間内に売買しなければならないし、大きく儲けられるしマイナスも大きい。 これは譲二も予想外で、普通の株の売買ではよほどの資金があってもこんな大金を得るのは難しい。 ちょっと取引しただけで8千万というのは大金で夢が広がるのは当然である。 こらえようのない嬉しさがこみ上げてくる。 信じられないような幸運は宝くじに当たった人も、これと同じ気分なのだろう。 一日の気分がどんなものか本人にしか解らない。 最高の気分だ。 流石にハイリスクハイリターンだと我ながら感心していた。

新生活 弟25回

     そのうちゴルフとマージャンの賭けに興じているうち僅かづつ賭けに負けたときの借金や交友費がかさみ、捻出するのに苦労する事が続いて動きが取れなくなってしまった。 その時は、まずい事になったと思ったが妻の幸子に言える程度の金額だったので臨時に払ってもらう事にした。 幸子は何度も繰り返されている迷惑ではなかったので、譲二の自由を極端に束縛したりはしなかった。 幸子は当然不満に思って、「今後、遊びのお金は自分の持っている範囲内にして、家のお金はもう当てにしないでちょうだい。 今回限りという事にして!」と言い放ったが、それ以上強い事は言わずに幸子のボーナスで精算するというかなり甘い対応であった。 幸子は譲二が多少金遣いの荒いのは知っていたのであまり驚かなかったが、トパッチリはこれで終わりにしたい事をはっきりさせておいた。 


     通常のサラリーマンが聞いたら譲二の立場は羨ましい限りである。 しばらくすると今度は、株取引をやりだした。 これまで縁がなかった事だが、友人の刺激を受けて試しにやってみたのが始まりである。 色々なやり方ができるので、下がってもナンピンしてあまり損をしないようにやり、ちょっと上がったら売るという鉄則で楽しみながら小額の資金でやっていた。 手持ち資金の範囲で取引を繰り返していたのだが、株はスリルと楽しみを持ち合わせ、余裕があればもっと儲けられると、資金の限界を残念に思った。 


     慣れてくると株の売買では一喜一憂しながら次の銘柄選びを楽しんでいた。 譲二は良く調べ上げ予測を立てて投資していたので、短期間の売買で利益を確定していた。 思いの他損失を出すのが方少なく上手く利益を出していたので、とても上手な部類にはいるといえた。 それは性格的に見切りを付ける決断力を持っているのが幸いしたのである。 投資する額が少ない割に、呑みに行くお金くらいは上手く捻出していた。


新生活 第24回

     知らず知らず譲二は変わっていったのであった。 20年近くになる結婚であるが、譲二は思いやりのあるもう一つの顔で今日に至り生活が安定しているようなので、妻の両親は二人の合意しているライフスタイルに口出しはしなかった。 住宅ローンはあるが、ヨットの時と同様あまり気にしないで返済していけば良いと気楽に構えている。 若い時に手に入れたヨットは家族で利用する事もあり、譲二は楽しむ事は忘れてはいない。 自宅近くの行き付けの飲み屋にも出向いている。 


     譲二は子供がまだ小さい頃、競馬に凝った。 制約のあまりない仕事柄、時間の合間に一発当てたい物だと考え、赤鉛筆を用意して競馬新聞を結構楽しみに見ていたのである。 譲二は金遣いが荒い上、そのようなギャンブルの為に何度か家計費を使いすぎて立ち往生した事があった。 その上軽い飲酒運転の罰金が重なったというダブルパンチがいけなかった。 その時は大金ではなかったので、借金の申しこみは適当な理由をつけて譲二の親に頼み、助けられた事があった。 身内からの借金はこれがはじめてだったので、急場はしのいで僅かづつ自分で返済して幸子に知られず何とかすり抜ける事ができた。 しかしこれに懲りる譲二ではない。 


     子供が成長すると、譲二は出かけてゴルフやマージャンをする時間の融通がつくようになった。 遊び好きな彼は今ではゴルフに結構凝っている。 始めてみると楽しいもので、仲間と会うのも良い気分転換になるしビールの味がまた格別である。 自宅でクラブを振って感触を確かめたりする事もあった。 譲二の収入は不規則なので、二人の収入を合わせたものを家計費としており、臨時収入の多い場合は譲二のお小遣いの足しになるし、やりくりを上手くすれば譲二が使う分に回った。 もう少し自分のデザインの仕事が増えると良いのだが、覚悟はしていたがそれほどの収入にならないのでなかなか思い通りにはいかないものだと思った。

新生活 第23回

     子供を持つと譲二の結婚は自分が思ったほど楽ではなかった。 ときおりアルバイトをしながら譲二は、子供の幼稚園時代から父兄代表にさせられ、式があれば挨拶を述べる役割を引き受ける羽目なってしまった。  授業参観に出ると若いお母さん達に「是非、お願いします」「やって頂けると本当に助かります」などと頼まれて無理やりPTAの会長という役員を押しつけられた。 何で俺がこんな所でこんな事をやらなきゃいけないんだ、などとは思わない。 譲二は居心地が悪いどころか、会合があると思わず笑みがこぼれた。 


     サラリーマン時代に経験のない別世界。 たくさんの人妻・・・ 少し時間ができたかと思うと下の子の公園デビューにお付き合いが待っていた。 しかし、譲二は不満に思うどころか楽しんでそれをこなしたのであった。  忙しいが、子供はあっという間に成長していったのである。 本当に手がかかるのは数年であった。 結婚後、詐欺のチャンスは狭まったかと思うとそうではなかった。 努力を怠ればチャンスに気付かずチャンスは逃げていくというが、まるで彼はその言葉通り上手にチャンスを掴むのであった。 本当は運ばかりではないのだが、俺はラッキーだと譲二は思っているのである。 不利になったなどと思ったことがない。 これまでの事を思い起こせば、犯行に胸が傷まない事はないがむしろ成功した時の喜びは、騙した後味の悪さが残っていただけに、ひとしおである。 


      妻の両親の援助もあり、やがて妻の実家近くに居を構えた。 当然、住宅ローンは抱えているし子供の教育費もかかる。 譲二は多くの時間を子育てに費やしながら、デザインの仕事へと移行していった。

新生活 第22回

(7) 新生活


     抜けるような青い空、まぶしいばかりの太陽、見渡す限り一面淡いブルー、透き通る水、ときおり吹く風を肌に感じながらTシャツ姿で日焼けした譲二は微笑んでいた。 思いっきりはじけた、はつらつとした声があたりで響く。 「全員プールから上がってくだい」とメガホンを手にした譲二は指示を出す。 譲二はライフセイバーを兼ねてプールの監視員をしていた。 30代半ばの譲二であるが若々しく、彼にはピッタリの楽しい仕事であった。 

     彼は、以前この種の仕事をしようかと思った事があったが給料が安いので選ばなかった。 彼は好きな仕事をして生きるのは幸福であるが最優先する事ではないと思っていた。 それはマンションに移ってから見つけた仕事であるが、暫くスポーツジムに移って水泳のインストラクターをしながら、幸子と結婚したのである。 


     幸子との出会いは友人の引越しの手伝いをした時、同じように手伝いに来ていたのが縁でスピード結婚したのである。 譲二が結婚するには、彼女の持ち合わせている条件は悪くない。 幸子が添乗員の仕事を続けるのを強く願っていた事で生活に困る事は無い。 わずかに金のなる木を見つけた気がした。 しかも幸子は、脱サラして自分で仕事をしようと思っている譲二の夢をサポートしても良いと言ってくれた。 結婚しようと思ったのはそれが決定的理由で、生活を真剣に考えたという事ではなく、これまで通り好きなように生きる事ができるので迷いがなかったのである。 自分が楽しめればそれで良いので、後の事はあまり気にしなかった。 実際子供が生まれても、譲二が家の切り盛りをかなり担当してくれるので幸子は安心して仕事を続けていられた。

逃走 第21回

     亜希子は、譲二との事を振り返ってみてもなかなか現実を認識しにくかった。 彼女は譲二の車の助手席に乗った時など、入ろうとする車を親切に入れてやったりしていたし、日ごろの態度に疑いを持つような思い当たる節は全然無かったからである。 今までの信頼していた譲二の良いイメージが強烈に浮かび上がって来るのだった。 亜希子はお金の問題もさる事ながら、人の善意をこのような形で裏切られた経験はなかったし、普通なら天罰が下るような事をヤスヤスと出切ないと思っていた。 ましてや個人的信頼を置いていた譲二である。 


     亜希子の受けた痛手は大きい。 時間がたつと、亜希子はこの世の中には平気でこのような事をする人が身近にいるという恐ろしさを痛感した。 手元には簡単な借用書はあったが警察に行くしかない。 しかしショックが大きすぎて警察に出向いて戦う気にはなれなかった。 亜希子はお金と譲二を失ったのである。 彼女は高い授業料を払ったのだと友人に慰められたり、諦めずに引き下がる事はないとアドバイスされたりするが、最終的には自己責任でした事と諦めたのである。 いわゆる泣き寝入りであった。 


      お金を騙し取られる場合、騙される方が悪い、バカだと逆に被害者がさげすまれる場合があるので泣き寝入りも珍しくないのではないだろうか。 譲二はこれまでお縄にならなかったのは、発覚しなかったからというより金額の問題も大きい。 泣き寝入りを見込んでの事で、警察に追われたのではかなわない。 捕まるようなヘマはやらないつもりでいるし、その自信はあった。 彼は組織の一員で動くのではなく単独犯で、自分本意に動く事に徹底している遊び人なのである。 外から見ると健全な人物である。 あまり表面的に出てこない詐欺師だが、いつの間にか彼はプロの仲間入りをしたといえるだろう。 譲二はセミプロか、ほぼプロの詐欺師といっても良い。

逃走 第20回

     そのまま譲二は新しいマンションに移り、ゆくゆくは婚約者の幸子と住むつもりだ。  実家には電話で「元気にしているから心配ないよ。 今度、転職が決まって引越しをするけど、落着いたら新しい住所と電話番号は後で知らせるから。 結婚したい人もいるしね。」と言っておき連絡は引き伸ばしておいた。 これまで譲二は実家にあまり帰らなかったが、たまに電話をする程度だが元気でいる事は知らせていた。 両親は譲二の意思で次のステップアップを目指し意欲を燃やしていると思い、頑張るようにとの応援の気持ちを心から声援したのである。


      亜希子が譲二の退職を知ったのは、返済の件について話そうとしたのではなく、暫く連絡が無いのでどうしているかと思い電話してみたのがきっかけだった。 電話をすると受話器から「おかけになった電話番号は・・・」のメッセージが聞こえた。 かけなおしても同じである。 翌日彼の同僚から譲二の退職は急な話しだった事を聞き亜希子は唖然とした。 落着いたら2~3日中に連絡が来るかもしれないと不安混じりに期待したが、次の瞬間冷静に考えると自分に何も言わずに退職したと云うのは変だと思った。 


     騙されたのではないかという気持ちと、まさかこのまま連絡してこないはずはない、彼はそのような人ではないという気持ちで半信半疑であった。 亜希子は、譲二がそんな人だと全く信じられなかった。 騙されたなら自分の目が節穴であったというショックと驚き、譲二を好きであるだけになかなか目が覚めなかった。 信頼を踏みにじられた悔しさと未練で複雑な思いであった。 健全な人間付き合いを続ける人にとって騙そうとする人の心理は理解し難いし、あまり疑いを持つような人と出くわさないという免疫の無い事も大きかった。 同じ騙しの手口でも、本物のブランドとして買った物が実はコピー商品であるとか、何らかの契約をして払った後で嘘の契約と解れば、その瞬間現実を受け止め悔しさと怒りに変わる。 
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Author:マドンナお吟
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